応用課程 開発課題20周年史
208 高齢者用低床可搬型階段昇降機の開発 安井 雄祐 *1 矢野 牧人 *2 中村 聡 *3 松野史幸 *4 1. はじめに 1.1 背景 内閣府の統計によると、我が国の総人口に対する65歳 以上の人口は 2017 年には 27.7%となっている。その後も 65 歳以上人口は上昇し続け、2042 年まで増加傾向が続 くと推計されている。このような高齢化社会の進行により、 介護ニーズも増え続けている。少子化の影響もあり介護 施設の現場では慢性的な人手不足に陥っている。また在 宅介護においては、高齢夫婦が配偶者の介護をするい わゆる老々介護が増えている。介護する側も高齢者であ るため、加齢に伴う身体能力の低下による肉体的負荷や 心理的負担が介護者に重くのしかかっている状況である。 このように介護を必要とする人は増え続けているが、そ のサポートをおこなう介護者を取り巻く環境は厳しさを増 している。また介護は、介護を要する人の尊厳を維持し、 その人の有する能力に応じて、個別対応的な援助が求め られる。そのため一人ひとりのニーズに合わせた支援の 方法がある。しかし前述の人手不足や介護者の高齢化の 問題により、ある程度、画一化した対応しかできず、本来、 正常であった身体的能力も、使用機会の減少から徐々に 低下していくことが問題視されている。 こうした介護の問題に対して株式会社コーヤシステム デザイン(以下 依頼企業)では技術面から解決に取りくん でいる。この企業は福祉介護用具を開発、販売しており、 子供用車いす、車いすオーダーメイド品、介助用シートク ッション、転倒時頭部保護用帽子などを手掛けている。販 売している製品は多岐にわたり、福祉介護分野の多様な ニーズに応えている。依頼企業より当校に対して、高齢 者用低床可搬型階段昇降機(以下 階段昇降機)の試作依 頼があり、応用課程、生産システム系の開発課題の枠組 みで開発した。開発は 2 年間にわたり、2017 年度は機械 系学生5名、電気系学生5名、電子情報系学生5名の計 15 名、2018 年度は機械系学生 6 名、電気系学生 5 名、 電子情報系学生 5 名の計 16 名で実施した。ここでは学 生達が開発した階段昇降機を紹介する。 1.2 依頼内容 車いす利用者がエレベータのない建物において階段 を昇降するには、介護者の助けが必要となる。市販され ているものに電気的動力でクローラを駆動させる階段昇 降機がある。市販されている昇降機は着座位置が高いこ とから重心位置が高くなり、階段の上り終わりと下り始めに 急激な姿勢変化が起こる。図1のように階段の最上段に おいては、クローラと最上段のエッジ(段鼻)が側面から 見たときに1点支持になるため不安定状態となる。その際、 被介護者が不安を抱きやすいことに加えて、介護者も腕 力で昇降機を支えることになり肉体的負担が大きい。そう した問題を解決するために、着座位置が低く、急な姿勢 変化が起きない階段昇降機の試作依頼があった。 図1 階段最上段での急激な姿勢変化 依頼企業からの要望は次のとおりである。 ・安心、安全に乗れること。・省スペースで移動できること。 ・操作が容易であること。・故障しにくいこと。・着座位置を 可能な限り低くすること。・操作は介護者が行うこと。・階段 の上り終わりと下り始めはゆるやかに姿勢変化すること。 また依頼企業と当校学生との打合せによって決定した 本装置の使用想定は次のとおりである。 ・被介護者は平地の歩行は可能であるが、階段の昇降が 困難な高齢者であり、認知面の問題はないこと。・本装置 を操作する介護者も高齢者であり、いわゆる老々介護で あること。・本装置の使用想定場所は公営住宅の共用階 段で階段の折返しには踊り場があること。・1 日 1 回の使 用頻度があること。 *1 (関東職業能力開発大学校) 生産機械システム技術科 *2 (関東職業能力開発大学校) 生産電気システム技術科 *3 (関東職業能力開発大学校) 生産電子情報システム技術科 *4 (㈱コーヤシステムデザイン) 代表取締役 208
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